ルールによって結果を最適に導くメカニズムデザインの概念

TIPS

世の中のビジネスは、様々なルールが適用されている。「ルール」とは、まあ仕組みみたいなものだと思っていただければよい。たとえば支払いルールでいうと、定額制、従量課金、都度購入なのか定期購読なのか、など。

この”ルール”に関して数学的に扱う学問があることをご存じだろうか。メカニズムデザインと呼ばれている学問だ。

メカニズムデザインとは、経済学の一分野であり、オペレーションズリサーチの最適化手法にゲーム理論の均衡分析を組み合わせたものだとイメージすれば良いだろう。なかなか説明が難しいのだが、「ルールによって均衡点を最も有益なポイントに誘導する」と言えばよいだろうか。※オペレーションズリサーチや均衡分析の詳細は割愛するが、非常に面白い分野なので興味のある方はいくつか書籍を読んでみることをお勧めする。

本記事においてメカニズムデザインの細かい理論に触れることはしないが、メカニズムデザインのモデル紹介、そしてそこから得られる視点は有益だと思うためご紹介したい。

Googleのオークションシステム

Googleのビジネスが優れている点は、有象無象の情報が溢れるインターネットの世界における「検索」というユーザーのニーズを収益化したことであることは間違いない。そしてさらに秀逸なのが検索連動型広告をオークション形式にしたことだと思う。

更に言うと、セカンドプライスオークションというメカニズムを起用している。セカンドプライスオークションとは「1番入札の高かった入札者が、2番目に高かった入札者の入札価格で落札する」というルールである。

ちなみに、上記Googleのオークション方式は封印入札方式(seald-bid auctionと言い、入札参加者は他社の入札価格を知ることができないルール)であり、オークションと言われてイメージするのは映画などでよく見る、会場全体に自分の入札額を公表して競う形であり今回議論の対象となるオークションとはそもそもルールが違うことにご留意いただきたい。

話を戻して、この封印入札方式にはセカンドプライスオークションに対して、ファーストプライスオークションという方式がある。ファーストプライスオークションはその名の通り「1番入札の高かった入札者が、自身の入札価格で落札する」というルールだ。落札金額のルールが違うわけだ。

一見、1番高い入札価格で落札してもらったほうが分かりやすいし売り手も儲かりそうなイメージだが、結論を先に述べるとセカンドプライスオークションの方が優れたモデルと言われている。

ウソつきを排除するメカニズム

セカンドプライスオークションの優れている点は、「入札者が嘘をつかなくなる」という点だ。

どういうことか、もう少し具体的に見てみよう。シンプルにするため入札参加者が2人しかいないと仮定する。商品に対する価値をv(a)、v(b)、そして実際の入札価格をs(a)、s(b)としよう

※効用の考え方がわからない方は、適当な経済学の入門書を見ていただきたい。また、僕自身は専門家ではないため理論的に不足している部分もあると思われるが、あくまでイメージしやすいように簡単な数式を利用する。

当然、自分の効用がマイナスになるような入札はしないから

v(a) ≧ s(a)
v(b) ≧ s(b)

となる。

入札者AとBは落札後の効用を最大化しようと考える。そこで1stプライスオークションと2ndプライスオークションで以下のように違いが出てくる。

【1stプライスオークション】
max v(a) – s(a)
max v(b) – s(b)

入札で負ければ当然効用は±ゼロなので、AさんとBさんは効用がマイナスにならない範囲で入札価格をいくらにするか戦略を練るわけだ。ここでファーストプライスオークションだと、入札金額を下げるインセンティブが出てくるのがわかるだろうか?

なぜなら商品落札後の効用は、自分の入札額sが大きければ大きいほど自分の効用が下がるからだ。入札に負けない範囲でできるだけ低い金額で入札をしたいという欲がでてきてしまう。その結果、AさんBさんの入札価格sは商品に対する価値vよりも安い入札するという思考が生まれてしまう。

次に、セカンドプライスオークションを見てみよう。

【2ndプライスオークション】
max v(a) – s(b)
max v(b) – s(a)

セカンドプライスオークションの場合、落札者は相手の入札価格で落札する。つまり落札後の効用と自分自身の入札sは関係してこないわけだ。そうなった際に、入札者はどのように入札戦略を考えるだろうか??まずAさんの視点から考えてみよう。

Aさんは以下を最大化したいのだが、s(b)はBさんの入札戦略でありコントロール不能だ。

max v(a) – s(b)

となれば、Aさんが取れる戦略はs(a)=v(a)しかなくなるのがお分かりいただけるだろうか?それは、落札後に支払う費用はBさんの入札戦略s(b)になるので、Aさんは商品に対する価値v(a)と同じ入札をすることが最善の戦略になるからだ。なぜなら仮にウソをついて入札に負けたら効用はゼロになるが、正直にv(a)という入札をすることでゼロより大きい効用を得られることになる。

s(a) > s(b)の場合
U(a) = v(a) – s(b) > 0   ※なぜならv(a) = s(a) > s(b)だからs(b)>s(a)の場合
U(a) = 0(オークションに負けたので)

Bさんも同様のことを考えるため、2ndプライスオークションでは両者が自分自身が感じる商品に対する価値vと同等の金額を”正直に”入札することが最善戦略となり、またそうなることで売り手も最大限入札価格を吊り上げることができるのである。

実は、ある仮定の下では1stも2ndも売り手の収入は同じになる、収入等値定理というものがあるのだが、現実的な仮定のものではない。その仮定がない場合は、2ndプライスオークションの方が期待収入が高まることが理論的にも証明されているそうだ。

ルールによって結果をコントロールする

ルールによってメカニズムを操り、ゲーム(上記の例はオークション)参加者のウソを排除し収益を最大化する。大変興味深い考え方・理論だと思うが皆さんはどう感じただろうか。

かなり端折った説明なので、もう少し詳しく知りたいという方はコチラ。数学等の知識がない方でも概念を知ることができる。

さらに、もっとがっつり理論を勉強したい方は以下をお勧めする。英語ではあるがオークション理論を学ぶ上で最も優れた教材ではないだろうか。

ちなみに今回ご紹介したのはオークションという有名なモデルだが、このオークション理論やメカニズムデザインの理論について勉強を勧めているわけではない。このオークション理論が示してくれた「ルールを操作するによって結果を最適なものに変える」という視点にフォーカスしていただきたい。

世の中のあらゆるものに、仕組み≒ルールが存在しているはずだ。あなたがいま従事しているビジネスも少しルールを変えるだけで、結果を劇的に変えられるかもしれない。常にそういった視点を持って物事をとらえるようにすることが重要だろう。

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